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ぼのぼの [アニメ映画]

 『ぼのぼの』は最初のTVアニメ(95年版)をCSでよく見ていて、そちらは可愛い動物たちが織り成すドタバタコメディの面が強く、わかりやすく子供向けのアニメだなという印象が強いものでした。しかし、その後に読んでみた原作漫画はあまりにもノリが違って困惑した覚えがあります。アニメ版ほどはっちゃけたギャグは少なく、4コマ形式で淡々と綴られる動物たちの日常を通して、「生きるとは何か?」といった哲学的テーマが見えてくる。どちらかと言えば間違いなく大人向けの漫画でありました。
 映画『ぼのぼの』は監督・脚本・絵コンテ、果ては声優まで原作者が務めており、TVアニメではオミットされた原作の雰囲気・世界観を完璧に映像化しています。作画だけでなく演出やテンポ感も含め、「原作がそのままアニメになってる」と思わせてくれる作品と言うのはそれほど多くありません。私がこの映画を知ったのは今月からの配信サービス解禁がきっかけでしたが、漫画原作の忠実な映像化のお手本のような作品として、もっと世間に周知・評価されるべきだと思いましたね。
 
 以下、ネタバレありの感想。
 この映画、全編通してびっくりするほど何も起こりません。今まで色々な映画を見てきましたが、こんなにも静かで動きのない映画というのは初めての経験で、まずそこから衝撃的でありました。
 じゃあそれだけ退屈な映画なのかというと、全くそんなことはなく、スローな雰囲気の中で終始程よい不穏さと緊張感が保たれており、最後まで集中して見ることが出来ました。作画・演出面でも地味に手の込んだことをやっているので、飽きるということは一切なかったですね。
 ストーリーの大筋は、ぼのぼのたちが住んでいる森にジャコウウシと呼ばれる大きな生物がやってくる、ただそれだけ。基本ぼのぼのたちがゆる~く遊んでいる場面が続く中、合間に挟まれるスナドリネコさんとヒグマの大将のやりとりのシーンになると、雰囲気がガラっと変わる。この二人の言ってる事が実に難解で、一度見ただけでは理解が追い付かず。
 「俺は何かの為に自分の命を投げ出すような生き方は絶対にしない」と言ったヒグマの大将は、スナドリネコさんに力で適わないと見ればあっさりと負けを認め、ジャコウウシに自分の息子が踏みつぶされようとした瞬間でさえ、助けようと動くことはしませんでした。結果的に息子は無事に生き残ったものの、私にはヒグマの大将が取った選択が「正しい」ようには…まるで見えなかった。自分を犠牲にしてでも他の何かを守ろうとする姿の方が美しいと思ってしまうのは、間違った考えなのだろうか?たとえそれが、争いの連鎖を生むきっかけになってしまうにしても…

 この映画が普通でないことは、開始からわずか数分後に放たれる、ぼのぼののある台詞で殆どの人が悟ることになるでしょう。
 「どうして、楽しい事は必ず終わってしまうんだろう?」
 このあまりにも重すぎる問いの答えは、ジャコウウシが去った後、終盤のスナドリネコさんとぼのぼのの対話の中で語られることになります。

 (以下、本編から台詞の引用)



スナドリネコ(以下ス)「ぼのぼの 楽しい事は必ず終わるし 苦しい事も必ず終わる この世にあるのは全部必ず終わってしまう事ばかりだ なぜだと思う? それは多分 生き物と言うものが 何かをやる為に生まれてきたわけじゃあないって証拠だろう」
ぼのぼの(以下ぼ)「何かをやる為じゃあないの?じゃあ僕たちは何のために生まれてきたの?」
ス「さあな…見る為かもしれないな」
ぼ「見る為?何を見るの?」
ス「お前が見られるものをさ」
ぼ「見てるだけなの?」
ス「そう しっかり見てればいいんだ」
ぼ「でも見てるだけじゃつまらないんじゃないかなあ」
ス「そうだなぁ 退屈するかもしれないなぁ 必ず終わってしまうことはそういう時の為にあるんじゃないか?退屈したら何でもやってみればいい
ぼ「じゃあ僕たちは なんだかすごく 簡単なんだね」
ス「そう 簡単なんだ」
ぼ「でも本当は簡単じゃないんじゃないの?」
ス「本当に簡単なのさ」
ぼ「本当に簡単なの?」
ス「ああ 簡単なんだ」




 この場面は声優さんの演技も、間の取り方も何もかもが完璧で、文字起こしではニュアンスが全て伝わらないかと思います。ぜひ実際の映像で見て欲しい箇所です。

 「生き物は何かをやる為に生まれてきた訳じゃない」「退屈に思ったなら、何でもやってみたらいい」…スナドリネコさんのこの台詞に、心を救われたように感じたのは私だけでしょうか?
 私もそこそこに年を取り、まだ若く未来に希望を持てていた頃とは、状況が随分と変わりました。何も為せず、何にも成れない自分に価値はなく、ただ漫然と生きてる事に意味はあるのかと、年々悲観と絶望だけが強まっていく…
 だけど、そんなに難しく考える必要はない。こんな私でもまだやれる事がきっとたくさんあって、何でもやってみればいい。自分で自分の可能性を潰すことほど愚かなことは、ない。
 この先の未来に対する不安が消えることはないけれど、もう少し前向きに、楽しく生きても大丈夫なのかなって。

 たった一時間半の映画ですが、原作の持つ魅力・作者の人生哲学が存分に込められた傑作。
 この作品を本当の意味で理解するには、たった一度の視聴では足りず、何度も何度も見返す必要があるでしょう。
 私は迷わずDVDの購入に踏み切りました。いつでも見たい時に見られるよう、傍に置いておきたい。この先の人生、おそらくこの映画を必要とする時がまた来るだろうと思えてならなかったから。

プロフィール

明日から本気出す
HN:ぷにょにょん(仮)
レトロゲームをネタに妄想を滾らせることを生き甲斐にする拗らせオタク。二度とは戻らぬあの頃に思いを馳せては感傷に耽っている

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