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瀬戸口廉也氏インタビュー・雑感メモ

 先日アニプレックスのイベント内で『ヒラヒラヒヒル』の出演声優さんによるトークショーがあったのですが、どうしても予定が合わずリアルタイム配信で見ることが出来なかったので、後でアーカイブで確認しよう…と思っている内にそちらも非公開になってしまいました(泣)。声優さん方のトークももちろん聞きたかったですし、何よりシナリオライターである瀬戸口廉也氏によるコメントが読み上げられたとのことで、それだけでも確認したかったなと。何せ瀬戸口氏は自分から作品について語る事はめったにせず、Xでもちょっとした日常や仕事の告知以外の事を殆ど話さない寡黙な方ですので、トークショーに寄せられたコメントの内容がどんなものだったのか、ファンとしては絶対に知っておきたい事柄だった訳です。
 貴重な機会を逃してしまった…と悔しく思っていたその数日後、突然上がってきたのがこちらのインタビュー記事です。いやはやビックリしました。確かにご本人がXで「僕もいつかヒラヒラヒヒルについて何か言える機会があればいいな」とこぼしていたのは目にしていたのですが、まさかこんなに早く実現するとは思わず。さりげない氏の呟きを見逃さなかった(笑)ライターさんにはただただ感謝です。

 以下、記事の文章の引用をしつつ『ヒラヒラヒヒル』と瀬戸口氏の過去作に関するあらゆるネタバレを含む所感をつらつらとメモ。


――X(旧Twitter)で『ヒラヒラヒヒル』は、「具体的に出す方法が決まる前から構想だけはしていた話」とポストされていましたが、いつごろから構想されていたのでしょうか。

瀬戸口氏:
『ヒラヒラヒヒル』は、前作にあたる『BLACK SHEEP TOWN』の制作よりも前に構想していました。ただゲームにしたいというより、ライフワークとして何かの形でまとめようと思っていたものです。リリースされている『ヒラヒラヒヒル』は、ファンタジーな設定も存在しますが、元々はそういった要素がない史実のようなお話でした。今回ゲームの企画として起こすときに多くの人に受け入れてもらえるような形に変えました。いくつか提案した企画の1つでしたが、 島田さんからこちらでお願いしたいと言っていただき、『ヒラヒラヒヒル』を制作することになったという経緯ですね。



 『ヒラヒラヒヒル』で一番気になったのが、千種先生と武雄の2人の主人公が、物語上でほとんど交わることがなかったという点です。私はひひる化した医者の千種先生と、学校を無事卒業して法律に関わる職に就いた武雄が、協力して風蘭症にまつわるあらゆる問題ごとを解決していく展開が最後にあるんじゃないかと予想していたのですが、物語はそこに行き着くより前に締めくくられてしまうんですよね。
 「風蘭症」という病気そのものはフィクションでも、その病状に苦しむ人々とそれに伴う周囲の困惑や蔑み、患者に相対する医者や介護人の奮闘といった描写は非常に生々しく、現実に存在する病をモデルに描いている事は誰が見ても明らかです。もし本当に史実のようなお話にしていたら、おそらく現代の、未知の病気への理解が進み整備された環境に至るまでの過程も描かれていたのかもしれません。”物語”としてはあそこで切り上げるのが一番綺麗に収まる、というのは確かに納得です…が、個人的にはその先も見たかったというのが正直な本音ですね。



――(中略)ちなみに『ヒラヒラヒヒル』では、主題歌「星たちの歌」の作詞を手がけられています。作詞をされるのは初めてだと思いますが、経緯についてお聞きしたいです。

瀬戸口氏:
作詞については、島田さんからどうしますかという話をいただいて、僕がやりますと言いました。リテイクを出して直してもらったり、さまざまな注文をして作詞家につらい思いをさせたりするので、それなら自分で作詞をしたほうが楽かなと。

――そうなりますと、今までの作品で作詞のリテイクは多かったですか。

瀬戸口氏:
作詞のチェックをお願いされたときは、ゲームの内容に沿っているかを考えてリテイクを出すこともありますし、ケースバイケースですね。



 瀬戸口氏は過去に『キラ☆キラ』『MUSICUS!』といった音楽(バンド)をテーマにしたゲームを2作出していますが、作品で使われた楽曲の作詞に関与しているという話は聞いたことがなく、そこは音楽担当のスタッフに一任していたのだと思っていました。全くのノーチェックという訳でもなかったようですね。
 作中での饒舌なテキストと比べて、「星たちの歌」の歌詞は一貫して平易で素朴な言葉で構成されており、本当に瀬戸口氏が作詞したのかと疑うほど(笑)。しっとりとした優しい曲調にマッチした素敵な歌詞に仕上がっていることは確かです。


――(中略)造形において意識されていることはありますか。

瀬戸口氏:
キャラクターそれぞれに、僕とは違う性格や個性を付けることですね。同じ考え方をしていると物語上で動かしにくいので、僕が思っていることをキャラクターが代弁していることはないです。

――それでは『ヒラヒラヒヒル』において、最も自分とかけ離れているキャラクターをあげるとしたら誰になりますか。

瀬戸口氏:
本作ですと、(常見)明子やお辰さん(島田辰子)でしょうか。女性キャラクターは自分から離れがちな気がしますね。




 瀬戸口氏の作品の特徴として、キャラクターが自分の思想や矜持について長台詞で延々と語るシーンが頻出します。特に『MUSICUS!』や『BLACK SHEEP TOWN』ではそれはもう一人の人間が書いてるとは思えないほど、ありとあらゆる考えを持つキャラクターがこれでもかと登場するわけですが、氏の1人1人血の通った”人間”を創り上げる文章力には本当に唸らされるばかりで。
 女性キャラクターが自分から離れがち…というのは、単に異性だからというだけでなく、いわゆる氏の”理想”が女性側に投影されているのかなぁと推察しています。なぜそう考えるのかというと、氏の描く男性キャラクターは主人公も含め割と”どうしようもない(笑)”奴が多いのに比べ、(メインに配置される)女性キャラクターはその殆どが善良な人格に描かれているからです。私が瀬戸口廉也氏のファンである理由の一つに、氏の生み出す女性キャラクターが非常に魅力的だから…というのがあったりします。そういう意味では彼がエロゲーというジャンルでデビューしたのは必然だったように思えてなりません。畑違いどころかそこが適材適所だったと。



――(中略)瀬戸口さんはたった一人の主人公を据えるというより、『ヒラヒラヒヒル』のように複数のキャラクター視点でストーリーを描かれることが多いですが、そちらの意図についてお聞きしたいです。

瀬戸口氏:
僕の場合はストーリーを先に考えて、その結果複数視点でさまざまな場面を描いた方がいいと考えたらそのように執筆しますし、主人公が一人のほうがいいと考えた場合も同様ですね。

――それぞれのストーリーに適切な方法で表現されているということでしょうか。

瀬戸口氏:
そうですね、ただ『CARNIVAL』だけは作り方が違いました。20年以上昔の話をしても仕方ないんですが(笑)

――ぜひ、お聞きしたいです。

瀬戸口氏:
2004年にリリースした『CARNIVAL』は僕が企画した作品ではないのですが、最初にプロットをいただいたときは、いわゆる復讐として強姦を繰り返すという形の「SINARIO1(木村学編)」しかありませんでした。ほかの人の企画なので、新たにシナリオを足そうにも根本のプロットは動かせません。そのため児童虐待をテーマに据えて、苦しまぎれに学以外の別視点も入れる形でストーリーをまとめました。

――そのような経緯で別視点の物語である「SINARIO2(木村武編)」と「SINARIO3(九条理紗編)」ができたのですね。

瀬戸口氏:
そうなんです。僕自身は主人公が一人でも複数視点でも好きですし、どちらかに優劣があるとは思っていないですね。



 この『CARNIVAL』にまつわる下り自体は過去にも語っていた事があり既知の情報ではあったのですが、こうして公の場で再度話題に上げてくれたのが単純に嬉しくて(笑)。氏のデビュー作でありマイベストゲームの一つである『CARNIVAL』は、奇しくも来月で20周年を迎えます。『CARNIVAL』についてはその20周年の日に改めて記事を作成する予定でいます。
 氏は複数視点と一人視点で特に拘りがある訳でないように言ってますが、ゲームに限って言えば完全に一人視点だけで描き切った作品は『MUSICUS!』のみで、他は全て複数視点での構成になってるんですよね(キラ☆キラは基本鹿之助視点だが千絵姉ルートで一瞬だけ視点が切り替わる場面がある)。もちろんゲームという媒体がザッピング形式に適してるからといえばそれまでですが、やはり氏にとっては複数視点の方が描きやすいんじゃないかと思いました。



――最後に自身の手がけられた作品のプレイヤーに向けて、一言お願いします。

瀬戸口氏:
楽しんでいただけたのならありがとうございます、つまらなかったらごめんなさい。こういう言い方はしたくないというか、誤解を生むかもしれませんが、特に『ヒラヒラヒヒル』は「多くの人にとって優しい作品であってほしい」と祈りながら作ったので、ショッキングな感想も多いですが、作者はそういう風に考えていると知った上でプレイいただけたら、ゲームへの見方が少し変わるのかなと思いますね。



 実際『ヒラヒラヒヒル』は数ある瀬戸口廉也作品の中でも鬱要素はかなりマイルドな方で、最も万人向けな内容に仕上がっていると感じました。価格やボリュームといった面でも瀬戸口作品入門として手に取りやすい1作になってるかと。
 私は昔からのファンだけでなく、もっとたくさんの人に氏の作品の素晴らしさが知れ渡って欲しいと思っていて、この『ヒラヒラヒヒル』が今後も多くの人の目に触れてくれるよう祈るばかりです。

 次の新作も鋭意執筆中とのことで、今から楽しみで仕方ありません。私は先生が引退するまでどこまでもついていく覚悟ですよ(笑)

プロフィール

明日から本気出す
HN:ぷにょにょん(仮)
レトロゲームをネタに妄想を滾らせることを生き甲斐にする拗らせオタク。二度とは戻らぬあの頃に思いを馳せては感傷に耽っている

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